Yukiko Yanagida's blog

柳田由紀子(やなぎだゆきこ)=むかし編集者、いまノンフィクション作家、在ロサンゼルス。最新刊『宿無し弘文ースティーブ・ジョブズの禅僧』(集英社文庫)で第69回日本エッセイストクラブ賞。米国人の夫と二人暮らし。家事もけっこう真面目にやってます。オフィシャルサイト=www.yukikoyanagida.com

「差別戒名」があったなんて知らなかった……。

 少し前になりますが、日本に一時帰国していました。その間に、曹洞宗の大本山、横浜鶴見の總総寺を訪ねました(曹洞宗には、永平寺と總持寺、大本山が二カ寺あります)。總総寺は、私がこの何年間も取り組んでいる故・乙川弘文スティーブ・ジョブズの禅の師)が、短期間、修行したお寺です(当時の弘文の所属は永平寺)。また、13歳だった弘文を得度した故・乙川瑾映(きんえい)禅師が、昭和52〜57年まで貫首だったお寺でもあります。それで、總持寺の歴史(竹内道雄著/吉川弘文館)を読んだのですが、以下の文章がありハッとしました。

「長年にわたり被差別部落の方々に『差別戒名』を付与してきた。」

差別戒名」というものが存在したこと自体を、私は知りませんでした……。亡くなってまで、そんな陰惨な仕打ちなんて。 

 少々難解ながら、總持寺の詳細がわかる『總持寺の歴史』(竹内道雄著/吉川弘文館)。
 
 ちょっと調べたところ、wikipediaにも「差別戒名」のページがありました。

被差別部落民が文字の読み書きが出来ない事に付け込んで、戒名に被差別部落民の墓だと分かる特定の文字や形式を用いることがあった」

 具体的には、「革」「僕」「屠」の他、「禅畜門(男)」「屠士(女)」「革門」「僕男(女)」「鞁男(女)」「非男(女)」など、当時の日本人ならすぐに事情がわかる戒名をつけたようです。

日本の路地を旅する』(上原善広著/文春文庫)は、被差別部落についてよくわかる名作。大宅壮一ノンフィクション賞受賞。被差別部落について学びたい人は必読。
 

  さらに信じられないのは、「戦後には、寺の敷地内に侵入して、ある人物の先祖の戒名を探し出し、その人物の祖先の出自を調べる差別事件が問題となった」。 ゲスというのは、こういう行為を指すのではないか。ぐっと落ち込みますが、この日本の歴史を受け止めていくしかありません。

差別戒名供養の写真

 偶然なのですが、私が總持寺に行った日にこんな看板を目にしました。「差別戒名物故者法要」のお知らせです。過去の過ちを反省し、現在、總持寺では、こうした慰霊法要や差別戒名の墓参を行っているそうです。

総持寺の写真

 この日、私は總持寺の坐禅会に参加しました。日時の都合で「英語坐禅コース」でした。外国の方々向けのコースだから(日本人でもOK。ただし説明は英語)、短くて楽ちんかと思っていたらとんでもない。約40分の坐禅+経行(歩く坐禅)約10分+再び30分くらいの坐禅と、みっちりでした。

総持寺、大錦の写真

 總持寺には、横綱、大錦卯一郎のお墓も。いち相撲ファンとして慎んで手をあわせる。大錦は、角界から引退後(実際には廃業)、早稲田大学政経学部に入学した稀有な経歴の横綱。

  

  (左)拙著、『宿無し弘文ーースティーブ・ジョブズの禅僧』は、スティーブ・ジョブズの師、禅僧、乙川弘文の伝記。