Yukiko Yanagida's blog

柳田由紀子(やなぎだゆきこ)=むかし編集者、いまノンフィクション作家、在ロサンゼルス。最新刊『宿無し弘文ースティーブ・ジョブズの禅僧』(集英社文庫)で第69回日本エッセイストクラブ賞。米国人の夫と二人暮らし。家事もけっこう真面目にやってます。オフィシャルサイト=www.yukikoyanagida.com

真珠湾攻撃の〈終着駅〉、「マンザナ日系人強制収容所」(カリフォルニア州)を訪ねる

 ここに来るのは、5回目になるでしょうか。数年ぶりにマンザナ戦時下日系人強制収容所」を訪ねました。前回訪問した時には、体育館を改造した博物館と、復元された監視塔しかなかったのだけれど、今は、他にもいくつかのバラックが新設されていていて再訪した甲斐がありました。

 マンザナは、はっきり言って遠いです。しかし、日米史を理解する上で極めて重要な場所なので、是非とも行かれることをおススメします。 

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 第二次大戦中の「マンザナ日系人強制収容所」。砂塵吹きすさぶ荒涼たる地。photo/ Dorothea Lange/ National Archives

 まず、マンザナ日系人強制収容所」について簡単に説明しますね。

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 1941年12月7日(米時間)、日本軍のハワイ真珠湾攻撃により日米が開戦。翌年2月、ルーズベルトは「大統領令9066号」に署名し、陸軍長官と指揮官が、「国防上危険と見なした人々」を指定区域から立退かせることを可能としました。指定区域は、カリフォルニア、オレゴン、ワシントンの太平洋岸3州西部と、アリゾナ州南部。「国防上危険と見なした人々」とは、そこに居住する日系人約12万人でした(アメリカ人である日系二世も含む)。

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 政府は当初、日系人に自主立退きを促したのですが、遅々として進まなかったため、3月より強制立退きおよび収容を実施しました。

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 北はワイオミング州から南はアリゾナ州、西はカリフォルニア州から東はアーカンソー州まで、全米10の地域に日系人の強制収容所が造られました。マンザナ日系人強制収容所は、なかでも最初に開かれた収容所です(1942年3月21日〜)。

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マンザナ日系人強制収容所」跡地は、ロサンゼルスから北に約350キロ。標高1170メートルの高地に、荒涼たる砂漠が広がっています。要するにド僻地です。10の強制収容所はどこも同様の環境で、戦前から続いた「日系人排斥運動〜真珠湾攻撃」へと続く一連の出来事の〈終着駅〉といえるものでした(写真右は、跡地に復元された監視塔)。

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 戦中、マンザナ日系人強制収容所は鉄条網と監視塔に囲われていました。住居はバラック。人口は最も多い時で約11,000人。バラック内は小さな部屋に仕切られ、狭い室内に初期には平均8名が暮らしました。部屋には、ダルマストーブと裸電球、簡易ベッド‥‥。突貫工事で建てられたバラックは、冬は厳寒、夏は灼熱。一年中砂塵が舞い込んだといいます(写真は、跡地に復元されたバラック)。

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 強制収容所といっても、アメリカはナチスのような虐殺を行っていません。所内には、病院や学校の他、野球場や劇場などの慰安施設もありました(写真は初期の病院。後にはもっと充実した施設ができた)。 

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 御祝い事もありました。マンザナ日系人強制収容所」では、188組が結婚し、541名の赤ちゃんが生まれています。

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  しかし、「収容者にとって先が見えないこと、プレイバシーがないことは、苦痛以外の何物でもなかったでしょう」と、マンザナ跡地解説局主任のアリサ・リンチさんは語ります。

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 さて、ここからは復元された建物や展示物を紹介します。かつて800あった建物の内、現在修復・復元されているのは、体育館バラック食堂などおよそ5棟。

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  体育館を修復したメインの博物館。中には劇場もあり、ドキュメンタリー映画を放映。是非、最初に見ておきたい。

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 日系一世には英語がわからない人々が多く、伝達事項は日本語で書かれることも。

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「マンザナ・フリー・プレス」という所内新聞も発行されていました(英語)。

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 収容所から出征する者も多かった。アメリカのせいで収容された親が、アメリカのために出征した息子の戦死通知を受け取るという、矛盾に満ちた光景が繰り返されました。写真右は、ヨーロッパ戦線出征前にマンザナ日系人強制収容所の母を訪ねたサダオ・ムネモリ。後にイタリアで戦死。

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 日系人初の名誉勲章受賞者、サダオ・ムネモリの銅像。銅像は、マンザナではなくイタリアのピエトラサンタという小さな街にあります。地元の人々が、ナチスから解放してくれた日系兵士に感謝の意を込めて建立したもの。 

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 収容所では各人に番号が付けられていました。サダオ・ムネモリの母は3695番。

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 戦時転住局発行の身分証明書。

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 終戦にともない収容所の閉鎖を伝える新聞。1946年3月28日をもって強制収容に終止符が打たれました。

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 収容所から以前暮らした場所に戻っても差別は続きました。排他的いたずら書きでいっぱいの元収容者の家。博物館には、このように貴重な写真がたくさん展示されています。

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 1988年、レーガン大統領は、日系人の強制収容が「国の誤りだった」と認めました。博物館にはその時のビデオもあります。

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  収容者には庭師も多く、いくつかの日本庭園が造られました。最も大きかったメリットパークを復元。

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  収容中に亡くなった方々の慰霊塔もあります。

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 食堂棟を復元したバラックです。

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  朝昼夕食のメニュー。それなりに栄養価のあるメニューのようです。

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  3食の他に、配給制で砂糖など贅沢品も入手できました。

 とはいえーー。

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 大戦中の写真によれば、トイレには間仕切りが一切なく便座だけが無機質に並んでいました‥‥。 

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 私が訪れた日、マンザナ日系人強制収容所」跡地は、トイレ棟の復元工事の真っ只中でした。トイレ棟ができてはじめて、強制収容の残酷さを伝えるられるのかもしれません‥‥。

Manzanar National Historic Site

address: 5001 Hwy 395 Independence, CA 93526

phone: (760) 878-2194 x3310

https://www.nps.gov/manz/index.htm

                       

 ロサンゼルスから車で5時間、サンフランシスコからは8時間。ロサンゼルスからヨセミテに行く場合、マンザナを経由することも可。

  なお、日系人史を深く知りたい方は、手前味噌ながら拙著『二世兵士 激戦の記録ー第二次大戦と日系アメリカ人ー』(新潮新書799円/税込)を読まれたらいいかと思います。コンパクトにまとめた新書です。

二世兵士 激戦の記録: 日系アメリカ人の第二次大戦 (新潮新書)

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